【動画紹介】観光ラベル~認証制度の舞台裏~
もくじ
フランス国営テレビのフランス2で1990年から放送されている「アンヴォワイエ・スペシアル(Envoyé spécial)」は、毎回ある1つのテーマを様々な角度から検証するテレビ番組です。今回は「フランスの最も美しい村」をはじめとする観光認証制度について特集がありましたので紹介したいと思います。
VIDEO: Envoyé spécial. Labels touristiques, les revers de la médaille
【概要】
「花の街」、「グルメの街」、「ファミーユ・プリュス」…、これらの呼称はどのように付与されているのだろうか?サン・ジャン・ピエ・ド・ポーから、ラ・フロット・アン・レに至るまで、観光認証制度の舞台裏をフランス2のテレビ番組『アンヴォワイエ・スペシアル』が調査した。
村の入口には「フランスの最も美しい村」、「花の村」、「グルメの街」、「ファミーユ・プリュス」といったラベルが至る所に掲げられている。こうした認証は、フランス国内に30種類以上存在している。バカンスの間にそれらの看板が掲げられた村を訪れれば、心が休まることだろう。しかしながら、認証された街・村のほとんどは実はあまり知られていない。なぜ自治体は、それらラベルを勝ち取るために一生懸命になっているのだろうか?審査の基準は何に基づいているのだろうか?それらのラベルを信頼して良いのだろうか?
【要求される基準】
「フランスの最も美しい村」に加盟していることを掲げるために、例えば1988年に加盟が認められたシャラント・マリティーム県の魅力ある小さな港街ラ・フロット・アン・レでは、数多くの努力を必要とした。まず初めに住民は、指定された建築物の色に従わなければならない。民家の外観はこのラベルを得るための最も重要な基準なので、村長自ら確かめる。そしてこのラベルは、村民にとっても利益のあるものである。平均して、この村の民家は隣接する村の家屋に比べて25%ほど価値が高いのだ。
観光ラベルの舞台裏を調査するため、この番組では同じくサン・ジャン・ピエ・ド・ポー、サン・フロレ、プルマナックへと足を運んでいる。
2016年7月21日放送
【様々な観光ラベル|00分00秒~】

南仏のとある場所、ガイドのムニエさんが得意とする日本語で村の説明を行っている。
案内を依頼した森本さんは、南フランスにある美しい村々を訪れるため2日間の滞在をしている。最初の目的地、タルヌ県のコルド・シュル・シエルに到着した。
森本さんは、ある物を求めてこの旅行を計画した。彼は完璧な美しさを探求しているのだ。
二日間にわたって、この日本人家族は認証を受けた村だけを訪れた。コルド・シュル・シエルは、エコ・ツーリズムを推進する村に与えられる「スタシオン・ヴェール」の認証を受けている。
続いて訪れたのは、「フランスの最も美しい村」協会に加盟しているベルカステル。コンクのように、「グラン・シット・ド・ミディ・ピレネー」(※ミディ・ピレネー地方の景勝地の意)に選ばれている村もある。
ガイドの奥様、のりこさんが今回の滞在をコーディネートした。なぜなら日本人観光客は村を訪れるとき、綺麗な鞄を買う時と同じようにブランドを好むからだ。
日本人の観光客は地球を横断して、認証を受けた村々に足を運んだ。
もちろんフランス人も、バカンスの途中で認証を受けた村々を訪れる。
フランスには数十の観光ラベルが存在している。高い評価を得ている認証も数多くある一方で、中にはしっかりとした努力が行われていないものもある。
認証を受けた村は約40%以上も多くの観光客を惹きつける。自治体の中には、勝ち取った証を掲げ、万全の準備が出来ている場所もある。ではそうした認証は、どんな基準によって加盟が認められているのだろうか?認証を勝ち取るために行う努力は、いつも割に合うものなのだろうか?
【サン・ジャン・ピエ・ド・ポー|3分17秒~】

バスク地方の中心に佇むサン・ジャン・ピエ・ド・ポーは、巡礼者のための宿場町だ。観光客に紛れた、散歩をしているかのような控えめな1人の男は、実は仕事のためにこの村を訪れている。「フランスの最も美しい村」協会の調査員パスカル・ベルナールさんだ。
大学で都市計画学を修了した彼は、この場所を審査のために訪れた。なぜならこの村が、「フランスの最も美しい村」のラベルを勝ち取るために応募をしてきたからだ。最初のステップは、村議会のメンバーとの面会である。まるで就職のための面接試験のようである。
サン・ジャン・ピエ・ド・ポーは、「最も美しい村」に加盟するための2つの条件を満たしている。人口2000人以下であること、および保護されている重要文化財/歴史記念物が2つ以上あることである。しかし、それだけでは全く十分とは言えない。パスカル・ベルナールさんは、目立たない場所にも目を光らせ、質問を投げかける。
調査員は確かな観察眼で、村が加盟に値するかどうかを調べ上げる。
少し緊張した面持ちで村長はパスカル・ベルナードさんに、村の見どころを説明する。村の紹介は、今のところ上手く行っているようだ。
村の一番高い場所に到着したところで、調査員は少し眉をひそめた。彼によれば、村の眺望は秩序立っていないため、とても優れているとは言えないそうだ。
パスカル・ベルナードさんは続いて、村の中心部の簡単な欠点を指摘する。村にある商店のショーウインドーの前に置かれた看板である。
しかし、旧市街から外へ出ると彼はより厄介な問題を発見した。
今回の現地視察と審査料として、サン・ジャン・ピエ・ド・ポーは「フランスの最も美しい村」協会に4,000€を支払っている。もしこの自治体が選ばれたならば、年間の負担金は5,000€になる。
1カ月後にパスカル・ベルナールさんは、「フランスの最も美しい村」協会に加盟する9人の村長から構成される委員会の中でこの村の報告を行う。その場所で、村の加盟に関する最終決定がなされる。
▼サン・ジャン・ピエ・ド・ポーの詳しい紹介はこちらから
「最も美しい村」の認証を勝ち取る事は簡単ではないようだ。このラベルは1982年に、コレーズ県にあるコロンジュ・ラ・ルージュ村長により発案された。観光客を惹きつけるため、フランス中にある66の美しい村々が集結した。今日では、153の自治体(※2016年時点)がこのラベルを勝ち取ることに成功している。ラ・フロット・アン・レのように!
【ラ・フロット・アン・レ|9分8秒~】

小さな港街は1988に「フランスの最も美しい村」協会への加盟が認められた。それ以来、人々の来訪は毎年増加している。現在では年に20万人以上が訪れ、加盟が認められた年と比べて2倍にも増えた。住民はその名誉にかけて村の景観保全に取り組んでいる。
ラ・フロットの住民ペシュローさんは、庭へ出入りする扉を塗ってもらったばかりだ。事業主と共に、仕事の出来栄えを確認している。
村のすべての住民と同様、ペシュローさんも村役場から提供される色見本の中から選ばなければならなかった。
いつものように、村内で民家の改修が行われた場合には、40年間にわたり村長を務めているレオン・ジャンドルさんがやってくる。規則に従って作業が行われたか、確かめに来るのだ。
毎朝、村長は村の中の見回りを行う。
村役場と地方の行政組織が、村の景観基準(Charte du village)を決めることが出来る。
村長は細部まで良く観察をしていて、景観に調和していない場所を指摘します。
村長にとって、この工房の店先は十分に手入れが行き届いていなかったようだ。芸術家であろうとなかろうと、持ち主としてのモラルが必要となる。
危険がある場合を除いて、村長は住民の民家の外観について法的に罰することは出来ない。それでも、レオン・ジャンドル村長はどのようにすれば良いかを知っている。
このように粘り強く議論を重ねることで、村内の修景は実を結んできた。たとえ補助金の支払いがなくても、ラ・フロットの住民は高い修繕費を支払うことを受け入れてきた。ただ、この修景によって笑みを浮かべているのは村長だけではない。ラベルを付与されたこの村の不動産の価値が高まっているのだ。
1988年に「フランスの最も美しい村」への加盟が認められて以来、レオン・ジャンドル村長は実に200軒近い民家のリノベーションに成功してきた。
【規制と個人の自由|13分36秒~】
たとえ村の歴史地区の外側にある木々に囲まれた小さな集落であっても、ラベルへの圧力は強く働いている。なぜならラ・フロットは「フランスの最も美しい村」協会に加盟している他に、自然保護地区にも指定されているからだ。この域内では、たとえ私有地であったとしてもキャンプが禁止されている。
ジェフレさんは40年以上前にこの土地を購入して、毎年この場所でバカンスを過ごしている。ただし、その権利はもう無いのだが。
こんな具合なので、毎年夏になると村の警察がやって来て家族の調書を作成している。
このキャンプを楽しみたい人々によると、バカンスの在り方は村長が抱くイメージとは少し違っているそうだ。
ラ・フロットの村長は、この件についてコメントすることを望まなかった。法に従い厳密に罰金を適用していくだけのようだ。
▼ラ・フロットの詳しい紹介はこちらから
【サン・フロレ|16分8秒~】

しかし完璧に法律を適用することが、現実問題として観光認証を失うことに繋がるということは無いのだろうか?
これはオーヴェルニュの丘の上に佇むサン・フロレの住民が抱いている疑問だ。33年間「フランスの最も美しい村」協会に加盟していた。しかし昨年秋、マギ・ラガルド村長は良くない知らせが記された一通の郵便を受け取った。
「フランスの最も美しい村」協会からサン・フロレの除名を通知する文書の中に記されていた判断基準の1つがこの道だ。
しかし除名の1年前に、マギ・ラガルド村長はこの道を整備するための大規模な工事に着手していた。歩道を設置し、車道を交互通行とした。
2008年からマギ・ラガルド村長は補助金を活用し、60万€もの資金を費やし村内の修景に取り組んできた。実に村の予算の約2倍にも及ぶ。
この広場には、「フランスの最も美しい村」協会が指摘した失敗例がある。この石畳の道が、十分に田舎風ではないのだという。
村役場には新たに石畳を整備する術は残されていなかった。
サン・フロレが指摘された最後の欠点を見るためには、丘の上へと登って行く必要がある。この下に見える一軒の民家である。「フランスの最も美しい村」協会にとっては、美しい景観を損なっているのだそうだ。
持ち主は正規の手続きを踏んでおり、この民家はフランスの建築物に関する景観規制に従って建てられている。伝統的な建築物群の保護が求められるサン・フロレのような村では、役人が定期的にチェックしに来るため、住民は後ろ指を指されることを恐れている。
【「フランスの最も美しい村」協会事務局|19分53秒~】
私たちはその答えを求めに、クレルモン・フェランにある「フランスの最も美しい村」協会事務局へと足を運んだ。装飾を見る限り美しい村協会の基準を満たしているようには見えないオフィスだが、この場所で再びパスカル・ベルナードさんに面会した。彼によれば、サン・フロレの問題は、もっと全般的なものなのだそう。
名高いラベルを掲げるための手入れが、村の建築物には十分に行き届いていなかったようだ。

【サン・サヴィニアン|20分57秒~】
「フランスの最も美しい村」協会はあまりに閉ざされすぎており、加盟する事はとても難しい。不合格となってしまった自治体の解決策は、基準を緩めた新しいラベルを発案することかもしれない。シャラント川沿いに佇むサン・サヴィニアンは、「フランスの最も美しい村」協会に加盟するため2度も立候補したことがある。しかし、村の入口に工場が建てられていたため、書類審査の段階で却下された。
結果として5年前に、ジャン=クロード・ゴディノ村長は打開策を見つけ出した。自身の村および近隣の村を評価するために適したラベルを創造したのである。「石と水の村」と命名した。

シャラント・マリティーム県にある13の村々が「石と水の村」の認証を受けている。ラベルの目的はシンプルで、人が押し寄せる海辺の観光客を内陸部へと惹きつけることである。すでに海水浴場として有名な村と、サン・サヴィニアンのように少し奥まった場所に佇む村が加盟する。
5年前から村への訪問客数は20%増加した。しかし、「石と水の村」の認証だけで村のすべての魅力を伝えることは難しいようだ。この村には、まだ新しいラベルを生み出す余地が残されている。
そして、これが最新のアイデアだ。
「芸術の村」と呼ばれる自治体はフランス中に存在している。それを認証制度に変えるだけで十分なのだ。最近廃業した肉屋は、アーティストのギャラリーへと姿を変えた。
この村の秘密を少し紹介すると、ジャン=クロード・ゴディノ村長自身が魔法の力を生み出すことに余念がないのだ。
次の村はクリエイティビティでは劣りますが、数多くの観光客が押し寄せています。テレビ番組のおかげで!
【プルマナック|23分50秒~】

「フランス人が選ぶお気に入りの村」は、まるで観光の認証制度のようだ。しかし、これはテレビ番組のコンクールであり、基準も調査員もいない。その代わりに毎年テレビの視聴者が、バカンスを過ごしたいと思うお気に入りの場所を選ぶのだ。
これらが過去5年間に1位を獲得した村々である。ロット県のサン・シル・ラポピー、オー・ラン県のエギスハイム、タルヌ県のコルド・シュル・シエル、モルビアン県のロシュフォール・アン・テール、そしてコート・ダルモール県のプルマナックである。
2015年にチャンピオンに輝いたプルマナックは、現在もこのテレビ番組の恩恵を享受している。1年経った後も訪問客の数は留まることを知らず、この海岸へ訪れる人の数は約40%近くも増加した。この番組の放送以来、ブルターニュ地方の小さな港町であるプルマナックは旅行業者にとっての巡礼地となった。この素晴らしいラベルは、村にとって天からの賜りものだったのだ。
今年、村の繁忙期である夏には、毎日約20,000以上の人々が人口300人ほどのこの集落を訪れた。
観光協会が、村を巡る特別のガイドツアーを始めた。
アイルランド人のウルシュラさんは、1年半前までプルマナックという村に関して耳にしたこともなかったそう。昨年夏の番組の際にこの村を訪れ、2012年に廃業してしまったこの小さな食料品店を再び営業することを閃いた。この店の開業にあたり、困難は感じなかったという。
事業を開始した今年度には、ウルシュラさんは村の一般的な食料品店に比べて約2倍以上もの売り上げを見込んでいる。
プルマナックは今まで観光ラベルを得るために立候補をしたことはない。なにより村を横切るメイン通りには、数多くの看板や公告が散乱しており、観光認証を得るための基準を満たしているかは定かではない。しかし、テレビ番組内ではこれらの場所は映されていない。青い海に、バラ色の海岸線と住民のおもてなし。この村は、どうすれば最も効果的に観光ラベルを獲得できるかを問題提起していると言えるだろう。
【一緒に読みたい】