太陽に照らされて煌めく小さな港に、タチアオイの花のピンク色に彩られる伝統的な白い外壁の民家。モルナック・シュル・スードルはシャラントの沿岸地域を代表する村である。
ガロ・ロマン時代にはすでにスードル川(Seudre)河岸に人々が集まり、現在個人の屋敷に改装されている城の近くの丘に漁業を営む小さな村が形成されていたという。住民の営みが発展するにつれて、屋根の低い白い家々が、簡素な小屋に代わって建てられるようになり現在の街並みが形成された。
港ではスードル川に張り出した色とりどりの小屋が今なお残されている。どこまでも続く湿地帯を背景に漁師町の趣が残る素朴な景観は、この村ならではの風景である。また、カヤックやカヌーで河口を下ることも可能で、川沿いに目を凝らせばシラサギの姿も目にすることが出来る。
モルナック・シュル・スードルを訪れた際には、村特産の牡蠣を食べずに帰ることは出来ない。ほんのり効いた塩味が味わい深い獲れたての牡蠣は絶品である。港の周辺では、近郊の海で採れた魚介類を提供するレストランが佇んでいるので美味しい食事を楽しむことが出来る。海岸に拡がる沼地では牡蠣の養殖場や塩田を見ることが出来るので、自転車を借りて周辺をサイクリングしてみるのも楽しいだろう。ガイドツアーも開催されているので、事前に連絡の上で参加してみるのも良い。
村のシンボル的存在であるサン・ピエール教会(Église Saint-Pierre)は、11世紀にメロビング朝時代の神殿跡に建設された。美しいロマネスク様式に、要塞化された鐘楼が上にかぶさっている姿が印象的で、教会裏から見る後陣の姿は見事である。中世のフレスコ画や聖遺物が残されているので、訪れた際は教会内部まで見逃せない。
かつてモルナック・シュル・スードルには塩や牡蠣、浜ゆでされた蟹や牡蠣の貝殻の粉などを運ぶための鉄道が運行していた。1970年代終わりに廃線となってしまったが、150年近くの歴史を持つ駅舎を鉄道資料館として活用している。地元の有志によって運営されるため7月と8月の二カ月間しか開館していないが、時期が合えば住民たちの情熱が詰め込まれたミュージアムを覗いてみると良い。
往時の面影を残す旧市街の中心にある村役場のある広場には、中世の市場が残されている。周囲には石畳が敷かれた細い小路(venelle)が港まで続いており、道中には芸術家や職人のアトリエやギャラリーが多く立ち並んでいるので、旅の思い出となるお気に入りの品々を探すのも楽しい。シャラントの沼地で真珠のように輝きを放つ村には、浜風に運ばれる幸せな時間が流れている。