サラマンカ県南部バトゥエカス-シエラ・デ・フランシア自然公園の中心に佇むラ・アルベルカの村は、美しい渓谷を望む自然豊かな村である。生い繁った森には、キノコや野生の動物など自然の恵みに溢れている。村の名はアラブ語で貯水池を意味する「al-birka」に由来している。
バトゥエカス渓谷に描かれた岩絵は、古くから人々の営みがあったことを示しており、アラブ人をはじめ多くの民族の定住の地として選ばれてきた。フランス語起源の地名が多いことは、12世紀にレオン王国のアルフォンソ9世によってフランス人が入植した歴史を物語っている。
この村を見守るフランシア山は、1434年にマリア像が発見されて以来、巡礼の地として栄えた。多くの巡礼者は安らぎを求め、アルベルカの施療院へと立ち寄った。
多くの文人にも愛され、ミゲル・デ・セルバンテスの著書『ドン・キホーテ』の中では、フランシア山の黒マリアについて言及されている。また、スペイン黄金世紀演劇を代表する劇作家ロベ・デ・ベガは、宮廷から逃避してきた2人の恋人たちが隠れる舞台としてバトゥエカス渓谷を描いた。
18世紀に建てられた聖母アスンシオン教会は、ネオ・クラシカル様式のシンプルで凛とした印象の教会である。教会内には16世紀から使われている花崗岩で出来た説教壇がある。その繊細で色彩豊かな彫刻には、誰もが目を奪われ魅了される。その他、村の郊外にあるマハダス・ビエハス礼拝堂(Ermita de las Majadas Viejas)には、12世紀に作られたロマネスク様式の見事な聖母マリア像が祀られている。
ラ・アルベルカは1940年に、スペインの村として初めて国の歴史芸術保存地区に指定されるなど豊かな有形・無形文化財が残されている。とりわけ、毎日黄昏時に女性が角々で鐘を鳴らすことで精霊や死者に祈りを捧げるモサ・デ・アニマスという習慣や、村民が共同で飼育したイベリコ豚を賭けてくじ引きを行うサン・アントン祭、8月15日の聖母の被昇天を称える奉献祭やその翌日に住民によって教会前で演じられる宗教劇ロアなど、昔からの独特の習慣や伝統を今なお大切に守っている。
迷路のように曲がりくねった道沿いには、木組みの可愛らしい民家が佇み、降り注ぐ太陽の光が作り出す陰陽が村の魅力を惹きたてる。石柱に支えられたアーケードに囲われた中央のマジョール広場は、今日も住民達が集まる憩いの場となっており、時代が流れても変わらない美しい暮らしが受け継がれている。