モンペリエ(Monpellier)北西の険しい渓谷の奥深く、サン・ギレム・ル・デゼールの村はラングドック地方でロマネスク芸術が花開いた場所として現在でも賞賛される。
スペインのサン・ディアゴ・コンポステーラへと向かう巡礼路の中継地として、中世にはキリスト教徒にとって名高い場所の一つとして知られ、イエス・キリストが磔にされた真の十字架(Vraie Vroix)の断片を崇めに多くの信奉者や十字軍、巡礼者たちが訪れた。
村の一番の見どころは、ジェローヌ旧大修道院 (ancienne abbaye de Gellone)である。9世紀にサン・ギレム(saint Guilhem)によって建てられた最初の修道院の一部は消失してしまったが、11世紀に再建された教会は現在でもロマネスク芸術の至宝と言われている。また、旧大修道院は「フランスのサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」の一部としてユネスコの世界遺産にも登録されている。
修道院宝玉博物館(Musée lapidaire de l’abbaye)では、修道院に残されたロマネスク様式やゴシック様式の彫刻のコレクションが展示されている。4月から10月にはジェローヌ旧大修道院の歴史と修復に関するドキュメンタリー映画を上映しているので、じっくりと観てみるのも良いだろう。また、アンタン博物館(Musée d’Antan)ではかつての村や地場産業の歴史について、実物大のサントン人形を用いて説明をしているので立ち寄ると良い。
サン・ギレム・ル・デゼールの村の中心へ向かうと、樹齢150年を超えるプラタナスの樹が魅力的な自由の広場(place de la Liberté)へと至る。樹の足元には1907年に造られた泉が設置され、アーケードが立ち並ぶ18世紀の屋根付きの昔の市場が周囲を取り囲んでいる。
入り組んだ村の小路に建つ頑丈な造りの民家は伝統的なバラ色の丸瓦に覆われ、壁面は日の光によって古色を帯びた風合いが美しい。これらは、ロマネスク様式の窓に、ゴシック様式の楣、ルネサンス様式のムリオンによって飾り立てられ一層輝きを増している。
夜になればもう一度自由の広場へと戻り、涼しい夜のカフェのテラスでサン・ギレム・ル・デゼールの魅力を心ゆくまで味わい尽くしたい。
【残虐な巨人と小鳥の伝説】サン・ギレム・ル・デゼールを取り囲む崖の上には血を好む巨人の住む城があり、いたずら好きのピ(Pie:カササギの一種)と共に住んでいた。サン・ギレムが巨人を討伐するためこの地に到着した時、巨人は小鳥の警告をいつもの作り話と聞かず、結果ギレムによって襲われ城はなすがままに破壊された。それ以来、この村にピは来なくなったと言われている。