オーヴィレール／Hautvillers

【シャンパーニュワイン揺籃の村】

ランス山地方自然公園にほとりに位置するこの村は、緩やかな傾斜で膨らむように広がる丘の斜面に佇む。

村内の建物には職業を指し示す可愛らしい看板が、140個ほど掲げられているので探して歩くのが楽しい。

小規模にシャンパンを作り続ける醸造家のワイナリーが点在し、テイスティングをしながらお気に入りの一本を探すことが出来る。

シャンパーニュ地方のワインぶどう栽培の中でも最も古い歴史を持っており、石灰の白亜質な地層が特徴的な景観を生み出している。

質の高いシャンパーニュワインの礎を築く上で、この丘のワインぶどう栽培は切り離すことが出来なかった。

2015年からは「シャンパーニュの丘陵、メゾンとカーヴ」の一部として、ユネスコの世界遺産に登録されている。

特に重要なのは17～18世紀前半になされたドン・ペリニョン修道士の功績で、安定して高品質の発泡性ワインを生み出すための醸造技術の確立、アッサンブラージュと呼ばれる品種をブレンドする役割の発見などが挙げられる。

こうした歴史的背景からこの村は、シャンパーニュワイン揺籃の地と謳われている。

ドン・ペリニョン修道士が従事したサン・ピエール大修道院は、650年に近郊の街ランスの大司教によって設立された。

841年に聖エレナの聖遺物を手に入れると巡礼の地として栄え、得られた収入を用いてブドウ用の畑を購入して以降、ワイン醸造がこの村の伝統として根付いた。

現在大修道院は「ドン・ペリニョン」の名を冠したシャンパンの製造・販売を行う老舗「モエ・エ・シャンドン」社の所有となっており、要人を迎えるための施設として利用されている。

また一般公開されているサン・サンデュルフ大修道院付属教会では、ドン・ペリニョン修道士の眠る墓が祀られている。

ワインの醸造に関して長い歴史を持つこの村ではあったが、柔らかい砂の層や地下水脈が多く点在していたために地下貯蔵庫（カーヴ）を作ることが困難だった時代が続いていた。

ワインが特別な意味を持つキリスト教において保管の問題は重要な課題であったため、1673年にこの街で初めての地下貯蔵庫がサン・ピエール大修道院のために作られた。

この困難な事業を指揮したのもドン・ペリニョン修道士で、現在も丘の中腹部には「トマ・カーヴ」の名で呼ばれる地下貯蔵庫が残る。

こちらも世界遺産「シャンパーニュの丘陵、メゾンとカーヴ」の構成する、重要な文化財となっている。

比較的地盤の安定していた丘の麓にも、回廊上の長いトンネルが連なる地下空間が広がっている。

これはこの村でワイン醸造を営む人々のため、19世紀末に作られた新たな地下貯蔵庫である。

その所々は石灰質の地層が姿を現し、脆い地盤を補強するために石やレンガでアーチ状に補強されている。

この共同カーヴも「トマ・カーヴ」と同様に、世界遺産「シャンパーニュの丘陵、メゾンとカーヴ」の構成遺産となっている。

1931年にはこの地下貯蔵庫を利用する醸造家が協力して運営をするワイン生産者組合が設立され、現在も200近い農家が加盟をしている。