長野県の南西部、自然豊かな木曽谷の山峡に沿って江戸時代から変わらぬ時を刻んでいる。
南木曽町の最大の魅力は、江戸(東京)と京(京都)を結ぶ中山道69次のうち江戸から数えて42番目の宿場町にあたる妻籠宿である。1968年の妻籠宿保存事業により全国に先駆けて街並み景観の保全に取り組んだことで知られ、往時の面影を今に伝えている。また同年には地域住民を中心に「妻籠を愛する会」が設立され、「売らない・貸さない・壊さない」の3か条に基づき、日常の生活を通じて集落景観が保たれている。1976年には全国で初めて「重要伝統的建造物群保存地区」(以下、「重伝建」と呼ぶ)に認められた。面積としては国内で最も大きい範囲の指定を受けており、全国の重伝建の約30%を占める。
妻籠宿を訪れたならば、明治10年(1877年)に建てられた脇本陣奥谷を訪れたい。明治天皇も滞在した由緒正しき建物は、堂々とした姿で訪問客を迎え入れている。冬には囲炉裏に光が差し込み幻想的な雰囲気を演出する。隣接する歴史資料館では南木曽の成り立ちや街並み保全運動の歴史などに関する展示が行われているので、併せて訪れると良いだろう。昔ながらの食堂や土産物屋が立ち並ぶ道中には、島崎藤村の『夜明け前』にも描写された妻籠郵便局や、妻籠の庶民の住居を代表する「下嵯峨屋」と旅籠として使用されていた「上嵯峨屋」、妻籠で最も最初に景観保全が行われた「寺下の町並み」など村全体が生きた美術館となっているので1日歩き回っても飽きることがないだろう。
毎年11月23日 (勤労感謝の日)には「文化・文政風俗絵巻の行列」が開催される。文化文政時代に中山道を歩いた人々を模した衣装を身にまとって、妻籠の村内を歩く様は江戸時代にタイムスリップしたかのようである。8月の第4土曜日に開催される「妻籠宿火まつり」では村全体がロウソクの柔らかな明かりに包み込まれる。
田立地区では10月第1日曜日に「花馬祭」が開催される。五穀豊穣に感謝を示すため、色彩豊かな花(竹に色紙をつけたもの)に彩られた馬が五宮(いつみや)神社の境内に向けて村内を練り歩く。前日には享保14年(1729年)に記録が残る、田立歌舞伎が開催される。また、妻籠宿の中心から少し歩くと17世紀半ばに最初の建築が行われたとされる藤原家住宅が残るなど、町内にも見どころが多い。
南木曽町では歴史・文化・自然の見事な調和に出会うことが出来る。受け継がれた伝統を目の前にすると思わず心が揺さぶられるだろう。