アルデーシュ川に沿ってそびえ立つ石灰質の崖の上に、バラジュックの村は佇んでいる。騎士で十字軍、時にトルバドゥール(※宮廷風恋愛詩人)でもあったバラジュック家は、中世から16世紀の宗教戦争にかけて村を重要な防衛拠点に発展させ、村内にはかつての栄光を今に伝える遺産が多く残されている。
11世紀に城壁を背に建設された塔は、13世紀に拡張されバ・ヴィヴァレ地方(Bas-Vivarais)を収める領主バラジュック家の暮らす城となった。13世紀に建てられた四角い主塔も村の最も高い部分にそびえ立っている。
要塞化されたロマネスク様式の教会は11世紀の建築と言われている。鐘を備え付けた壁が見事であり、登れば村の美しい眺めに心を奪われるだろう。2006年に教会としての役割を終え、現在は作品の展示やコンサートの会場としても活用されている。パリで活躍した抽象画家ジャック・ヤンケル(Jacques Yankel)のステンド・グラスは必見である。
その他、魔法使いファシニエール(Fachinière)が抜け道として使ったとの伝説の残るパッサージュや、かつて蚕の繭の計量に使われた鉄の棒、夏の門(portail d’Été)やサブリエール門(porte de la Sablière)なども見逃せない。
村の外れにはヴィエル・オドン(Viel Audon)の集落があるので、時間に余裕があれば訪れてみると良いだろう。19世紀に過疎のため消滅した集落を再生するプロジェクトが1970年代に始まり、1万2000人以上のボランティアの助けによって1980年に再興された。祖先の生きる知恵を残し、啓蒙するための共同集落として作られ、ヤギの飼育や伝統的な農業を営みながら、チーズやパテ・ビールなど販売している。村の散策に疲れたら、この場所で一休みしてみるのも良いだろう。
また、断崖の上からは王妃ジャンヌの塔(La tour de la Reine Jeanne)が村を見下ろしている。中世にレ・グラ(les Gras)を通ってユゼル(Uzer)へと抜ける道を監視するために建設された。塔の名は、16世紀終わりに活躍したジャンヌ・ド・バラジュック(Jeanne de Balazuc)にちなんでおり、彼女の物語はバ・ヴィヴァレ(Bas-Vivarais)地方で語り継がれ多大な影響を与えた。
狭くて細い迷宮のように入り組んだ小路とアーチ状のパッサージュが連なる中世の街の特徴を色濃く残すバラジュックは、迷子になりながら魅力を発見をしていくのにぴったりの村である。